消費税について、説明してください。
これまで30年以上にわたり、個人開業医として地域医療に携わってきていたが、この
たび、医療法人として新たに大きな一歩を踏み出すことにした。
新しい法人に対しては、代表者である私が個人診療所を経営していた際に、有していた資産など1300万円の基金を拠出している。
ところが、事務長から「資本金の額あるいは出資の金額が1000万円以上になってしまう。また、院長の個人診療所時代の課税売上も1000万円を超えてしまうため、初年度から消費税の課税事業者になってしまうのでは?」という指摘を受けてしまった。
この法人のように基金を有する持分の定めのない社団医療法人の場合において、基金の額は消費税法の定めている「資本金の額あるいは出資の金額」には該当することはない。
また、新たに設立された法人については基準期間が存在していないため、原則として、設立1期目及び2期目は、免税事業者となる。
これまでの出資持分ありの経過措置型医療法人と異なり、法人の事業年度開始の日における基金の額は「消費税法第12条の2(基準期間がない法人の納税義務の免除の特例)に掲げる『資本金の額あるいは出資の金額』に該当することはない」とされている。
したがって、基金の額が1000万円未満であることが消費税免税事業者の必須条件ではなくなったことに留意しなければならない。
また、法人の「課税期間の基準期間(法人の場合は前々事業年度のこと)」における課税売上高が1000万円を下回る場合については、消費税の納税義務が免除されることになる。
新たに設立された法人については基準期間が存在していないため、原則として、設立1期目及び2期目は、免税事業者となる。(2期目移行は特定期間の課税売上高でも判定することになる。)
なお、個人事業者がいわゆる法人成りによって、新規に法人を設立した場合については、個人当時の課税売上高については、その法人の基準期間の課税売上高に含まれることはない。
<税法等の解説>
医療法人の消費税
2007年4月施行の改正医療法によって、医療法人の非営利性の徹底の観点から鑑み、施行後に認可申請を行って、設立される社団医療法人については、出資持分のある医療法人は設立できない、とされることになった。
これにともない、持分の定めのない医療法人の活動の原資となる資金の調達手段として基金への拠出を募集することができることとされている。
事例の法人については、このような基金を有する持分の定めのない社団医療法人となる。
○ 新たに設立する医療法人の消費税—原則は免税事業者
新たに設立した法人が「課税期間の基準期間」における課税売上高が1000万円以下
である場合について、消費税の納税義務が免除されることになる。
この基準期間とは、原則として、法人の場合は前々事業年度のことをいう。
したがって、新たに設立された法人のように基準期間が存在しない場合については、原則として消費税の納税義務が免除されることになる。また、2期目移行は特定期間の課税売上高でも判定されることになる。
この場合で、個人事業者がいわゆる法人成りによって、新たに法人を設立したような場合においては、個人当時の課税売上高はその法人の基準期間の課税売上高に含まれない、とされているようである。
これは、2007年4月施行の改正医療法によって、医療法人の非営利性の徹底の観点から鑑み、施行後に認可申請を行って、設立される社団医療法人については、出資持分のある医療法人の設立が不可能である、となった。
持分の定めのない医療法人の活動の原資となる資金の調達手段としては、これにともなって、基金への拠出を募集することが可能になった。
持分の定めのない社団医療法人の事業年度開始の日における基金の額については、消費税法の定める「資本金の額あるいは出資の金額」に該当することはないため、1期目の消費税は免除されることになる。
【簡易課税】
課税期間の前々年もしくは前々事業年度の課税売上高が5000万円以下において、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書(消費税簡易課税制度選択届出書)を事業年度開始の前日までに提出している法人については、実際の課税仕入れ等の税額を計算することなく、課税売上高から仕入控除税額の計算を行うことが可能である「簡易課税制度」の適用を受けることが可能となる。
この制度については、仕入控除税額を課税売上高に対する税額の一定割合とするものになるようだ。この一定割合を「みなし仕入率」と呼び、事業の種類によって、みなし仕入率が異なる。
みなし仕入率
第一事業(卸売業):90パーセント
第二種事業(小売業):80パーセント
第三種事業(製造業等):70パーセント
第四種事業(その他の事業):60パーセント
第五種事業(サービス業等):50パーセント
※ 医療法人の場合については、おおむね50パーセントとなる。ただし、物品の販売等については80パーセント、不要な機器の売却については60パーセントと異なるみなし仕入率を適用されることになる。
医療法人の場合については、消費税の課税対象とならない社会保険診療などがあること、
経費のうちに人件費など、消費税の対象とならない金額の占める割合が、大きいことなどから、喚起課税制度を選択する法人が多くなる。
○ 消費税のかかる取引、かからない取引
医療法人の場合については、健康診断、自由診療などの消費税対象となる取引と、社会
保険料や労災など消費税の対象外の取引が存在している。
【消費税の対象とならないもの】
国民健康保険法・老人保健法・健康保険法などに基づいて行われる身体障害者福祉法・社会保険医療給付金、生活保護法などに基づいて行われる公費負担医療給付金、労働者災害補償保健法など基づいて行われる医療給付金、助産にかかる医療などの診療収入については、消費税がかかることはない。
【消費税の対象となるもの】
一方、診断書作成料、健康診断、人間ドッグ、予防接種委託料などの自由診療収入は消費税がかかる売上となる。また医業収入以外の収入についても、例えば自動販売機の売り上げ手数料、公衆電話の改修料金等の売上は消費税がかかることになる。その他、医療法人で使用していた固定資産を売却した場合の固定資産売却額などの、消費税の対象となる。
消費税は一般課税・簡易課税どちらの制度を利用するのが有利になるのか、といった基本的な点も含めて、事前シミュレーションが重要となるだろう。そのためにも、どの取引が消費税課税対象となるのかは、きちんと確認しておきたいところになる。
○ あえて設立初年度から課税事業者になる。
設備投資が多額にあった場合などについては、免税事業者であっても課税事業者を選択
することによって、消費税の還付を受けることが可能となる。(課税仕入人が大きくなるためとなる。)
新たに事業を開始した法人が課税事業者になるについては、その事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出が可能であれば、その課税期間から課税事業者となる。
この届出書を提出した事業者については、事業廃止の場合を除いて、原則として、課税選択によって納税義務者となった最初の課税期間を含めた2年間は免税事業者に戻ることは不可能になっている。
免税事業者である設立初年度から課税事業者になるかどうか、についてはよく考える必要があると考えられる。
○ 免税事業者である期間でも課税事業者に
2013年1月1日以後に開始する年あるいは事業年度については、基準期間の課税売
上高が1000万円を下回る場合(または基準期間がない場合)であったとしても、特定期間の課税売上高が1000万円を超えた場合については、当課税期間から課税事業者となる。(原則として、特定期間とは、法人の場合その事業年度の前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間をいう。)
なお、課税売上高に代わって、給与等支払額の合計額により判定することも可能となる。
たとえ設立2年目の原則免税事業者の期間であったとしても、特定期間の課税売上高が1000万円を超えそうな場合については、一般課税または簡易課税のどちらが有利かをシミュレーションしてあらかじめ届出を出しておくということも必要になってくる。
持分の定めのない社団医療法人の場合について、原則として設立初年度の消費税は免税となる。ただし、多額の設備投資を行う場合や、特定期間の課税売上高が1000万円を超える場合についてなど、課税事業者になる可能性があることにも注意が必要となる。消費税は将来的な事業計画も含めて、どのやり方が有利なのか、事前に税理士等と相談しながら、シミュレーションすることがきわめて重要となる。