出資持分の相続対策についてが、わかりません。
20年前に、医療法人を設立することにしました。
医療法人の理事長を勤める先輩医師により「とにかく理事長としての威光を築き、できるだけ影響力を長く持ち続けることが大事になる。出資持分も目の黒いうちは誰にも文句を言わせてはいけないよ。」とアドバイスを受けました。
すっかりその気になって、顧問税理士にもその意気込みを話したところ、渋い顔をされてしまい、「医大に通う息子さんが後継者になる可能性は考えていないのですか?今から対策を考えておかないと息子さんが相続税で苦しむことになるかもしれませんよ。」と言われてしまいました。
<ポイント>
短期的なガバナンスの問題にとらわれ、中長期的な相続対策まで考えが及ぶことはありませんでした。
<対応>
医療法人の所得が、毎年出るような状況であれば、出資持分の評価も上がるので、引退する時に慌てて検討し始めるようなことでは、十分な相続対策をとれないかもしれないでしょう。
そこで、以下のような方策も考えられることになります。
(1) 役員退職金などの大型経費の支出があるときに出資持分の移転を行います。
(2) 医療法人設立後でも早めの移転を検討します。
<税法等の解説>
出資持分の相続対策
遺産分割のトラブルや重い相続税の負担が、病医院の存続に影響することもあるので、事前に相続税のシミュレーションを行うこともあり、納税資金の確保なども含めた対策を講じておくことが必要となります。
○ 相続事業承継対策
出資持分の後継者への承継は、出資持分のある医療法人の理事長にとって、重要課題と
いえます。一般的に、出資持分の評価は、高額となるケースが多く、後継者含め相続人に対しての相続税の影響が大きくなるためとなります。
したがって、後継者含め、相続人の負担する相続税がどれくらいの金額になるのかを事前に把握することにし、長期的に、相続税対策を検討することが重要となります。
○ 理事長の相続における事前留意点
理事長個人の相続財産・債務の全体像を把握した上で、相続税納税資金の有無やその必
要額を確認することにし、後継者含め相続人へどのように財産を分割するのかを検討することにします。
また、一例として以下のような事前確認が考えられるでしょう。
(1) 理事長の出資持分の評価はどれくらいあるか?
出資持分は、次期後継者が承継していくと考えられるため、理事長個人の相続財産のうち、出資持分がどれくらいの評価額になるかを把握することは重要となります。
(2) 医業用不動産(土地・建物)の所有者は理事長か?
相続財産は相続税評価額によって評価することになりますが、一定の要件を満たした土地である場合において、「小規模宅地についての相続税の課税価格の計算の特例」という制度によって、最高80パーセントの評価減の適用が可能となります。
(3) 理事長個人の財産のうち換金可能財産はどれくらいあるのか?
相続税納税資金の確保や後継者以外の相続人に対する分割財産を確保できるのかを確認するべきでしょう。
(4) 理事長からの医療法人への貸付金はあるか?
理事長からの医療法人への貸付金(医療法人にとっては借入金)は、理事長個人への相続税財産となるようです。
○ 出資持分を事前に評価する重要性
医療法人の理事長の相続を考えた場合において、医療法人の出資持分は理事長の相続税
財産のうち最も重要な財産の一つとなります。
その評価は、相続時点での評価額となるようですが、医療法人は配当金を出すことが法律上禁止されているため、長期間利益が出ている法人は法人内部に利益が留保することにし、出資持分の評価が設立当初に出資した金額を大きく上回ることが少なくないでしょう。
そして、出資持分の評価が高額になり、後継者に医業承継財産が集中した場合については、出資持分は換金性がないため、次期後継者となる相続人の納税資金が不足するケースも考えられるでしょう。
したがって、次期後継者のスムーズな事業承継を行う目的のためには、まずは現状における医療法人の出資持分の評価をすることにして、次期後継者に与える相続税の負担がどれだけの金額になるのかをシミュレーションすることが重要となってくるでしょう。
○ 出資持分の相続税対策
出資持分が高額になっている場合において、後継者には多額の納税が発生することが想
定されることになります。したがって、前もって出資持分の評価の引き下げを図って、持分の一部を後継者に移転させることにより相続財産自体を理事長から切り離すことや、どのようにして納税資金の確保が可能となるのかを検討することが重要となってくるでしょう。
(1) 出資持分の評価の引き下げの一例
代表的な方法としては、理事長の勇退による退職金の支払が考えられます。
退職金を支払った時等、多額の経費が発生する時には法人の純資産が減少するため持分の評価は下がります。そのタイミングで出資持分を後継者に移転するとよいでしょう。なお、移転の方法としては、譲渡と贈与の2つがあります。
(2) 納税資金の確保の一例
すでに後継者が医療法事の理事長である場合については、不相当に高額な役員報酬とならない範囲で、ある程度将来の納税資金を意識した役員報酬を設定するべきでしょう。
その他、生命保険を活用することにして、理事長に相続が発生した時において、医療法人が遺族(後継者)に支給する死亡退職金の納税資金とする方法なども考えられるでしょう。
内部利益を備蓄すると出資持分の評価が高くなることになります。
設立当初の出資金:900万円
その他:100万円
出資金:1000万円
理事長:900万円
他:100万円
↓税引後利益:800万円
理事長:1620万円
他:180万円
↓税引後利益:800万円
理事長:2340万円
他:260万円
出資金評価額:2600万円
※ 医療法54条により配当は禁止されていることになります。
相続対策では、相続人官でのトラブルが生じやすくなってしまいますから、あらかじめ専門家に相談し、相続対策をしておくことがポイントとなります。